大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(う)731号 判決

被告人 番馬芳男

〔抄 録〕

事実誤認の論旨について考えてみるのに、職業安定法三二条一項本文は、「何人も有料の職業紹介事業を行ってはならない。」と規定し、有料の職業紹介を業とすることを禁止する趣旨が明示されており、また、労働基準法第六条は、「法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」と規定しているのであるから、他人の就業に介入して利益を得ることを業とすることを禁止する趣旨と解される。そして、右に業とするというためには、行為としては単に一回の斡旋行為が行なわれただけでも足りるけれども、いずれにせよ同種の行為を将来にわたって反覆継続する意思でこれを行なった場合にはじめて業としたものということができると解すべきである。これを本件の事案についてみると、被告人は原判決の罪となるべき事実第一の一、二のとおり、昭和四六年二月二七日に石井幸子を長谷川商事株式会社が経営する「バー・モナコ」にホステスとして働くことを斡旋し、原判示のとおり二回にわたって長谷川正己から現金合計九万七〇〇〇円を受領し、その約三か月後の同年五月二九日に野正栄子を荒木与利栄の営む芸妓置屋に芸妓として働くことを斡旋し、旅費名下に現金三万円を受領したことはいずれも原判決挙示の証拠によって肯認しうるところであるが、さらに詳細に検討してみると、被告人がそのような斡旋をするに至った事情は次のようなものであったことが認められる。すなわち、石井幸子の場合は、被告人がたまたま街頭で同女と知り合い、同女とともに約一か月間も旅館等で同棲生活をするうち、生活費等に窮したところから、同女がホステスとして勤めることになり、借用金として二回に合計九万七〇〇〇円を受領したもので、右金員は被告人が同女の就業を斡旋したことに対する世話料ということではなく前借金の性質をもつものであることは、同女と被告人とが連帯して借用証書・念書等を長谷川正巳に差し入れていることに徴しても明らかなところである(東京高裁昭和四七年押第一七二号の一、二、三各参照)。また、野正栄子の場合は、被告人は、同女とも偶然に知り合い約一週間同女と同棲生活をしていたが、同女は無断で家庭から家出した者で、いまさら家へも戻れなかったところから、被告人に就職の世話を頼み、被告人はその依頼によって三〇万円の前借金で同女を原判示の芸妓置屋に就業を斡旋し、車代として金三万円を荒木ミツから受領するに至ったもので、該金員が報酬の性質をもつものであることは否定できないけれども、それも被告人の要求によるものではなく、荒木ミツが自発的に差し出したものであることが認められる。そこで、以上認定したところからみると、右二つの斡旋行為をするについてはそれぞれ個別的な事情ないしは動機が存在したものであり、その金員受領の形態も全く異なるのであって、この二個の行為自体から被告人が同じような行為を反覆継続する意図のもとにこれを行なったとは直ちに認め難い。また、その他一件記録を精査してみてもその反覆継続性を認めるに足りるだけの客観的事情(たとえば、他にも同種の事実がいくつもあるとか、前科の態様が本件と同種のものであるとかいう事実)はついに見出し難いのである。そうしてみると、被告人の原判示斡旋行為が業としてなされたものであることの証明があったとはとうていいえないから、原判決が本件につき職業安定法違反および労働基準法違反の各事実を認定したのは事実を誤認したもので、右の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、その他の論旨に対する判断をするまでもなく、原判決は破棄を免れず、論旨は理由がある。

(中野 寺尾 粕谷)

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